音楽家のための動き: 身体意識の重要性

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Format: Collaboration
Collaborator: The Department of Music of the Autonomous University of Bucaramanga | Mukti Espacio Vivo
Date: March 6-7, 2024
Collaborators Websites: Autonomous University of Bucaramanga, Mukti Espacio Vivo
Associated Press: Vanguardia

2024年3月、私たちはコロンビアのブカラマンガ自治大学(UNAB)の音大生と彼らの教授たちと一緒に協力するという素晴らしい機会を得ました。音楽家にとっての身体意識と意識的な動きの重要性に焦点を当てました。

UNABでの講義の企画中、私たちは音楽学部の学生のためのプログラムをデザインするよう依頼されたのです。プログラム・ディレクターのウラジミール・ケサダ・マルティネスは、学生たちが技術的には優れているにもかかわらず、ステージプレゼンス、自信、姿勢、演出について明らかな欠如があると指摘しました。そこで私たちは、それに働きかけるプログラムを作るよう求められたのです。

プロの音楽家にみられる演奏関連筋骨格疼痛

音楽家は、長時間特定の姿勢を保つ必要性から、慢性的な痛みや緊張に苦しむ傾向があるということはよく知られています。多くのプロの音楽家を対象とした研究では、80%から97%の音楽家が少なくとも一部の身体で演奏に関連した筋骨格疼痛を経験したことが報告されています。注意すべきは、これらの問題は、学習段階にある若手の音楽家にも発生する可能性があるということです。

20代前半の音楽学生の主要な悩み

UNAB大学の当グループの音楽家に影響を及ぼす主要な問題を理解するために、調査を実施しました。学生グループの平均年齢は22歳でした。このグラフは調査結果を表しています。

全学生の50%が痛みや緊張を経験していると報告しました。楽器演奏を専攻する学生(59%)に比べ、ボーカルを専攻する学生の痛みや緊張を経験している割合は低かったです。楽器演奏者の中で痛みや緊張を感じる割合が高かったことは、楽器によって導入される非対称な姿勢の現実と関連があるでしょう。

あがり症は、学生の60%に影響を与える、もう1つの普及した問題でした。さらに、睡眠の質が悪かったと報告した学生は30%を超え、約30%が身体に一般的な不快感を表現しました。全学生のうち悩みを抱かないと回答した学生はわずか10%でした。

興味深いことに、報告された身体活動量と報告された悩みの数との相関はありませんでした。これは、運動量や活動量の増加が自動的に睡眠の質の向上や緊張や不安の軽減に繋がるとは限らないことを示唆しています。これは、私たちが強調する中核的な考え方の1つである「大事なのは何をするかではなく、どのようにするか」という考え方を間接的に支持しています。

アンケートデータを基に、緊張解放メカニズム、身体認識、空間的注意、あがり症や不安管理を主に焦点を当てた2日間のプログラムを設計しました。

The instructor in front of a big screen with a projection of her presentation overhead.

プログラム

UNABの音大生たちは集中し、興味を持ち、積極的に参加していました。前述の通り、いくつかの音楽学部の教授も学生たちと共に参加しました。

私たちのプログラムは、身体認識の様々な各種に焦点を当て、非対称な姿勢で長時間過ごすことが体の位置の認識を変えることにどのように影響を及ぼすかを探求しました。写真を用いて、音楽家の「リラックスした姿勢」がしばしば「演奏姿勢」と同様の曲線や非対称性を持っていることを示しました。

楽器を演奏する際の姿勢の「記憶」をリセットし、演奏の間の「基準状態」を見つけるために、意識と制御された筋収縮の重要性について議論しました。また、自律神経系における呼吸の重要性を強調し、穏やかな状態を達成するための長時間の制御された呼気の影響についても強調しました。

しかし、セッションのほとんどは、Baseworksの動きの原則を実体験を通じて理解するためのエクササイズに焦点を当てていました。学習の多くの要素は、主にボトムアップで行われます 。つまり、 特定の動きの反復実施を通じて新しいパターンが形成されます。ただし、Baseworksの動きの原則には、トップダウンの側面もあります。 一旦タスクを理解すれば、動き方が一気に変わる場合もあるということです。

A music student playing the cello happily while the instructor demonstrates to the other students what to notice in the movement

音楽家における身体認識トレーニングの直接的成果

ワークショップを終えた後、、音楽学部の教授たちと話をしました。教授たちは、ワークショップで行った演習の効果について指摘し、「プレゼンス」(「ステージプレゼンス」や俳優の「存在感」とも言われる)や「体とのつながり」を築く上での効果について教えてくれました。彼らは、歌唱やパフォーマンスでこれらの概念が頻繁に議論されているが、実体験でそれらをまだ把握していない者に伝えるのは難しいと述べ、Baseworksがこれらの考えを具体的な形で体験するための実践的でアクセスしやすいアプローチを提供していると感じたことを共有しました。

また、音大生たちと彼らの経験について話す機会もありました。

ギターの音大生の1人が気付いたことは、

音楽家は体を使って仕事をしているにも関わらず、多くの人が十分な身体認識を持っていないということです。

もう1人の、演劇とダンスをしていたため明らかにかなりの身体意識を持っている音大生は、次のように述べました。

他のクラスメイトの中で、おそらく過去にBaseworksのワークショップで実践した原則みたいなものに触れたり気づいたことがない人々がいるのですが、で、彼らの進歩を見ると、確かに、あなたたちがおしゃっていた「身体意識」において特定の弱点があります。私たち音楽家の多くは、空間自体に気付いていないのです。空間の次元、身体の次元、動きの次元についてもそうです。でも、私自身がそれを第一人称で体験したことですが、音楽を演奏する際やステージに立っているとき、単に話す際にも、自分の身体で何をしているのかを知ることが非常に重要であることを理解しています。

また、彼は、演奏する際には「身体とのつながりを持ち」「リラックス」する必要があるという話がよくある一方で、

…大学に入って以来、今までは、こういったしっかりとした基盤構造と体の感覚を探すために利用できるメソッドを持つ、このようなワークショップを大学で行われたことがありませんでした。

ボーカリストの別の学生も次のように述べました。

毎日、「身体との繋がり」や、リラックスするのに役立つポーズについて常に耳にするじゃないですか。でも、私たちがそれをうまく実践するための意識を持っていないのです。しかし、私にとっては、Baseworksがそれらすべてのアイデアを集め、整理し、具体的な形と原則を与え、これらいつも言われている意図を達成するためのものだと感じます。ですので、Baseworksに行くことは、その情報を既に凝縮して整理された形で見つけ、いくつかの原則で適用することができるという意味で、より簡単です。だから、それが私たちにとってもっと簡単なのです。もっと理解しやすく、より実践的です。今では、あなたと学んだ原則を考え、身体化(※ embodiment)や呼吸意識などの意図を達成することが簡単になりました。

多くの音大生が、ワークショップの直後から日常の経験や演奏に変化を感じたと私たちに伝えてくれました。

ギターの学生であるギイェルモは次のように述べています:

動き方に注意を払うことが、小さな動きにさえ気を配ることが、自分の体がどれだけバランスが取れていて対称的でいられるかに気づかせてくれました。今では、ギターを弾く前に座るときに、自分自身をどうやって体を通して表現していくかについてもっと細かく考えだしています。

フルーティスト兼ボーカリストのニコールは次のように述べています。

フルート奏者として、また歌手として、私は演奏前や演奏中の姿勢にもっと集中することを学びました。以前は、フルートやそのテクニック、音にばかり注意を払っていました。だからこの経験は、自分自身と自分の身体をより意識するようになり、本当に役に立った。この意識は、私の音とステージでの自信を向上させました。

フルートを楽しそうに吹いている学生を、インストラクターが姿勢や体の使い方についてアドバイスしている。

ピアニストのアンドレアは自分の経験をこう説明しています。

あの練習の後、私は楽器を演奏するときに肩を下げるように自分に言い聞かせるようになりました。肩が上がっていると、緊張が高まって指の動きが制限されるのを感じます。しかし肩を下げると、腕、肩、背中全体がリラックスする。このリラックゼーションが、肩を上げているときとは対照的に、指が流れるように動くことを可能にしている。ワークショップはたった2日間だったが、その原則は私の中に残り、将来自分の楽器で使っていこうと思います。

ヴォーカリストのソフィアは、「肩を下に引く 」テクニックと 「活性化状態を全身にめぐらす」の原理(緊張せずに筋肉を活性化させること)を組み合わせることで、演奏の体験が変わると言いました。

彼女は自分の 「以前 」の状態をこう表現しています。

歌う際には緊張による不快感や痛みを経験する傾向がありました。肩に緊張を感じたり、時折背中の痛みも経験したりすることがよくあり、これは私にとってひどかったです。なぜなら、歌うことが楽しいと感じていなかったからです。

そして、「活性化状態を全身にめぐらす」から伝達された質で歌う経験を、彼女はこう表現しています。

演奏中に全身を動かし、すべての筋肉を使うので、痛みや緊張を感じることなく演奏をすることができます。自分の身体で起きていることすべてに常に意識を向けているため、このテクニックを使うと、演奏後にストレスや緊張、窮屈さを感じることがなく、代わりに穏やかでリラックスした気分になることができます。

さらに、音楽学部の教授たちとも話しました。聴覚障害児に音楽を教えることでコロンビアで知られているUNABのボーカル教授であるルス・ヘレナ・ペナランダ・ロペスは、Baseworksを「体系的」であり、その技術がボーカルトレーニングや演奏において重要な要素を「再確認」するものであると感じたと分かち合いました。

作曲家のアドルフォ・エンリケ・エルナンデス・トレスとも、空間認識と音楽の即興演奏との関連について多くの示唆に富む議論を行いました。彼は、ダンスの即興に熟練した空間能力が高い個人ほど、音楽の即興でもより創造的であるように見えると述べました。会話の中で、この関連性の潜在的な理由についての観察と初期のアイデアを交換しました。

後付け

これは、20代の大勢の人々と新しいプログラミングを試す素晴らしい機会でした。

UNABのご尽力に、Mukti Espacio Vivoのマリア・ルシア・アゴン・ラミレスの紹介と協力に、このイベントを実現してくれた皆さまに感謝しています。

参加者は本当に熱心で反応がよく、私たちが期待した通りにすぐに原則を理解して自分の活動に取り入れました。知覚や行動の特定の側面は発展するのに時間とトレーニングが必要ですが、意図を調整することで即座に変えることができる側面もある。後者は特に、パフォーマンスや日常体験を大きく変える際に非常に強力な体験です。

ベースワークスのテクニックが歌に役立つと思うかとの質問に、ソフィアはこう答えました。

もちろんよ。歌だけでなく、日常生活にも、人前で話すときにも、何にでもね。

UNABでのワークショップが好意的に受け入れられ、私たちが音大生やその教授たちと過ごした貴重な時間は、ベースワークス・メソッドのような知覚や意図を改変するトレーニング方法が、創造的な芸術に携わる人々や若い聴衆一般に大きな利益をもたらすという私たちの確信をより強固なものにしました。

身体認識ワークショップ後の講師とミュージシャンとの集合写真

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